ArKitypeのブログ

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【SS】 月夜の如き少女 part2 【COJ】

 小学校への侵入者の撃退の夜から明けた朝。

 午前7時を知らせる古めかしい目覚まし時計がジリジリと鳴り響く部屋の中、彼女はエージェント京極院沙夜の面影もなく起床が苦手な低血圧少女であった。

「うるさいのじゃ…朝は嫌いなのじゃ…」

 布団の中からスラリとした手を伸ばし目覚ましをカチン、と止める。腕だけが布団から出ているせいか、傍目から見ればホラービデオの一幕にも見えなくもないほど白い手をしていた。  このままもう一度寝たいのが本心だが、部屋の外から朝食を知らせる母親の声もする。 しぶしぶと布団から這うように出てきた様もまた、亡霊のようだが布団から出てみればたちまち美少女である。 未だ重い瞼をこする姿は年頃の少年が見ようものなら一目惚れもうなずけるほどであった。

 のろのろと、眠気のせいかおぼつかない手つきで着替えを始める。 しかし伊達に生まれてこの方ほとんどを和服で過ごしてきた甲斐もあったか、あっという間に普段の姿に変わっていた。

 部屋を出ると、朝の冷たい空気が沙夜の肌を撫でる。 少々驚いたように肩をすくませながら、食堂へと向かう。 

 京極院家は、外から見ればまごうことなき日本の家という趣だが、内装は時代の流れかところどころ折衷されている。 最新式のIHヒーターやシステムキッチンが導入された食堂もその1つである。

 食堂に入ると、すでに家族たちが食事に手を付けていた。 テーブルには、母親の作った和一色の朝食が並べられていた。 白米にわかめと豆腐の味噌汁。ほうれん草のおひたしに玉子焼き、鮭の塩焼き。 ちょっとした料理店で出てきても遜色ない出来栄えは、旧家に嫁ぎ研鑽の日々を積み重ねた母親の賜であった。

 「おはよう、沙夜。 冷めちゃうからはやく食べてしまいなさい。」

 朝食の後片付をしながら、割烹着姿の母親が沙夜を急かす。

「おはようございます、母上、父上」

 沙夜がよく出来た娘らしく丁寧な挨拶を交わすと、朝刊を読みふけっていた父親が沙夜に気づき、言葉を返す。

「ああ沙夜、おはよう。 しっかり食べるんだぞ。」

 そう言い、再び新聞に目を落とす父親。 どうやら旧来のファンである御身売巨神ビルダーズの昨日の試合の記事に夢中のようで、沙夜を急かしておきながら自分の箸は一向に進んでいない。

「父上もほどほどにしないと母上に叱られるのじゃ…いただきます」

 沙夜はそんな父を横目に食事を始める。 きれいな三角食べを黙々と続けて15分ほどですべての椀がきれいになくなっていた。

「ごちそうさまでした」

 しっかりと手を合わせ、席を立つ。 ここまで行儀の良い少女もこの時勢では珍しいかもしれない。

 朝食を終え、流れるように歯を磨き、そして自室へと戻り、時計を見れば午前7時40分。 ちょうど学校に行く頃合いである。

勉強机の隣に置かれた鞄を肩に下げ、つい、と大きなミイラくんの元へ向かう。

「では、行ってくるのじゃ。」

 あどけない笑顔でミイラくんを数秒抱きしめ、満足してから部屋をでる。

「行ってきます」

「気をつけるのよ」

 母親に見送られ、玄関を出る。 エージェント兼中学生の少女の1日が始まる。 昨晩とは違う、あたたかみのある風が彼女の髪をひとたびなびかせた。

 

  ***

 

午前8時、基本的に沙夜はこの時間には学校に着いている。 基本的に体力関係のほうは苦手だが、流石に20分も歩けないほどではない。 沙夜と同じように、たくさんの生徒がぞろぞろと通学路からやってくる。

 ところで、基本的に中学校というのは制服で登校するものである。 この学校も、昔ながらの黒の学ランと紺に白いラインの入ったのセーラー服を採用していた。

 しかし、その中に一人黒基調の和服の、それも白髪といった少女がいればどうだろう。たちどころに目立ってしまうのはどうしようもないものである。

 彼女の同学年や、1つ年下の生徒たちは、慣れも合ってかさほど気に留めないが、流石にまだ日の浅い一年生は時折彼女の方に目を向ける。 自転車通勤のサラリーマンも、すれ違う時に、ちらりと視線を向ける。 だが、沙夜はそんな視線をものともせず、校門をくぐり、校舎に向かう。 やはり、十数年も同じ視線を感じていれば、彼女自身も慣れるのか、はたまたエージェントの仕事で身についた臆さない心構えか。

  補足すると、もちろん沙夜も本来は制服で登校すべきなのだが、この学校の校長の人がいいのと、校長が沙夜の父親との懇意であったため、沙夜の和服での登校を認めていた 。

(…たまにはセーラー服もきてみたいのう)

 彼女自身はわりかしどちらでもいいのかもしれない。

 

 そして、休日を挟んだ3日ぶりの授業が始まる。 この学校は、別段特別な学校ではない。ごく普通の授業が執り行われる。 沙夜には、苦手教科というものは、座学にはないため、ランダムに質問をあてる教員の設問にも苦なく答え、淡々と4限までが終わっていった。

 4限がおわれば、給食である。 前述のとおりごく普通の学校のため、給食もセンターからとどけられるものである。

 今週は沙夜は当番ではないため、並んでお盆を持ち、配膳を待つ方である。今日の献立は、ちくわの磯辺揚げに温野菜、春雨スープにごはんというものだった。

 実のところ、沙夜は給食の米があまりすきではない。 センターで炊かれてからここに届けられ、配膳されるまで役1時間。 その時間の間に米櫃のなかでは蒸気が冷え蓋に張り付き、そして滴り落ちる。そのため、水気がしてあまり好きではなかった。

 (給食でも炊きたてのごはんがいいのう)

 そんなことを考えながら黙々と食べていると、机を合わせている班の女子から声をかけられた。

「ねえ、京極院さん。 今日の放課後、みっちゃんと一緒に本屋によるんだけど一緒にどう?」

 みっちゃんというのは女子生徒の友人であり、沙夜ともそれなりの交流があった。 格好と口調こそ目立ってはいるが、人見知りや引っ込み思案というわけでもないので、仲の良いクラスメイトも多い。 一方男子はその美貌に怖気づいて、声をかけづらいものも多いようだが。

「ふむ、いいじゃろう。 今日はなにかのはつばいびじゃったかの?」

「この前言ってたじゃん、 今日は陰陽師シリーズの最新刊がでるんだよ!」

 陰陽師シリーズというのは、少女小説のなかでも群を抜いた人気をもつシリーズである。 沙夜もまた、このシリーズの読者であった。

「おお、そうじゃったか。 新しい展開がきになるのう」

「でしょー! じゃさ、学校終わったら正門前で待ち合わせね! わすれないでよ!」

「うむ、相分かった」

 こくりとうなずき了承する。 見れば件の女子生徒はもう別の生徒と話の華を咲かせている。 そしてまた、彼女は昼食に戻るのだった。

 昼休みが終われば掃除である。 普段の彼女の昼休みは図書室での読書やそれなりに親しいクラスメイトとの話に講じたりしている。 楽しい時間はすぐに過ぎ、あっという間に掃除が始まった。

 今週は沙夜たちが当番だった。 沙夜は分担表通りに黒板と窓の掃除にあたっていた。

 このとき、沙夜は着物の袖をまくり上げ、作業をしやすいようにするのだが、袖からあらわになる細く白い腕は男子生徒の目をひきつけてやまない。 彼女には聞こえないよう彼女について語り合う輩もちらほら。

 沙夜が窓ふきに勤しんでいると、クラスメイトの少女が声をかけてきた。

「京極院ちゃん、ちょっと話いいかな?」
「ん、なんじゃ?もう少しで窓ふきが終わるのじゃが」

「ううん、べつに大した話じゃないからそのままでもいいんだけど…」

 すこし語尾を濁らせる少女。

「あのね、京極院ちゃん。やっぱり私思うんだけど、京極院ちゃんモデルのセンスあるよ!」

「な、なんの話なのじゃ!?」

 唐突な話題に沙夜は驚きをかくせない。

「ううん、やっぱりそう!その驚いた顔も可愛いもん!やっぱり芸能界向いてるって!」

「あー…一週間前にはアイドルデビューを勧められたの…」

 この少女は、女子にはめずらしく彼女に気があるのか、しきりに沙夜を芸能界にすすめたり、オーディションの応募を勧めたりするのである。

「だってこの前の音楽で先生ベタ褒めだったんだよ!?これはアイドルか歌手の素質アリだよ!」

「毎度言ってるはずじゃがどうしてお主はそんなに儂を芸能人にしたいのじゃ…?」

「だってかわいいもん!使わなきゃ損だって!」

迷いのない理由に沙夜は少し戸惑う。 3年生になってからはや3か月は経とうか。この少女はもはや沙夜にぞっこんである。 …決して百合とかそういうわけではないようだが、やはり沙夜から見れば異常性を感じずにはいられない。

 「どうしてそう気恥ずかしいことを平気で言えるのかの…」

 沙夜はもはや呆れ半分であるが、

「じゃあいっそだれか男子と付き合っちゃえば!恋しちゃおうよ!なんか新しいことに目覚めちゃうかもしれないよ!?」

「当分浮いた話はない予定じゃ」

 慣れたように、きっぱり返す沙夜。

「もーつれないなー。あーじゃあさ、今度の土日に一緒に服見に行こうよ!かわいいの一緒にさがそ!」

 めげずに沙夜に誘いをかける少女。 もはや少女のなかでは自分はプロデュース中のアイドルなのだろうか。 そんな気も感じられる気迫である。

「まだ月曜日じゃ。 週末のことはわからぬ。 …まあいちおう考えておくのじゃ。」

「ほんと! じゃあよろしくねー! 」

 言うが早いか、彼女はゴミ袋を手に収集場へ向かっていったのだった。

「あやつ…仕事もせずになにを…」

 慣れたはずなのだが、彼女のテンションの高さには未だついていけない。  沙夜が嘆息をついていいると、授業の予鈴が鳴り響いた。

 その後も、授業は難なく進み、放課後を迎えた。

 約束通り、正門前で待っていると、詩織、という名の約束をした少女と彼女の友人のみっちゃんこと美佳と本屋へ向かっていった。

 本屋で少女小説コーナーにいくと、さすがは大人気シリーズ。 新刊のスペースに1列ずらりと平積みされていた。

 「おっし、買うぞー!」

 詩織は、念願の新刊と合ってかなりのハイテンションである。 美佳もまた、嬉しそうに、新刊を手にとっている。

 沙夜もそれに続き、本を手に取る。呪符を構えた主人公の少年がヒロインを背に隠し、勇ましく立っている表紙を、まじまじと眺める。 

陰陽師のう…実際はどのような仕事だったのだろうのう…」

 話には、占い師のような役割だったと聞いている。 しかし、陰陽師というものに霊媒師の家系である沙夜にはなにかシンパシーを感じていた。 

「実は本当は式神や神将を使役していたら面白いのにのう…」

 エージェントである沙夜は、見方によっては新種の式神使いであろう。

 小説の少年が式神にハッパロイドを使役して言えるさまを想像すると、どことなくしっくり来る。 これはありじゃな、と自己完結し新刊をレジへもっていくのだった。

 無事に購入し、詩織たちと別れ、帰路につく沙夜。 時刻はまもなく5時。空が少しずつ赤みを帯びていく。

  そして、事件や事故もなく家についた沙夜。 ただいま、の声と一緒に玄関に入ると、

母親が夕食の準備をしているのか野菜を切る音が聞こえてくる。 母親のてを煩わせまいと、食堂にすこし顔を出して、あいさつをしてから部屋に戻る。 今日は、宿題もないためゆっくりと陰陽師シリーズを読むことができるのだ。

 本棚にしまってあった布のブックカバーをつけ、ページを開こうとした、その時

彼女の携帯端末が鳴り響く。 エージェントの召集の呼び鈴である。

 すこし残念そうながらも、本を閉じ、端末を開く。 すると、今や見慣れた管理官のアクティスからのメッセージが流れる。 

『京極院沙夜さんへ出動指令。 アルカナ空間より一般住宅へ侵入が確認されました。 セキュリティの突破を試みてる模様。直ちに対処にあたってください。』

  メッセージをひと通り聞き終えると、すっくと立ち上がる。

 玄関に行き、外出用のブーツを履き準備を終える。

「まったく…儂の楽しみを邪魔しおって…この罪はしっかり償ってもらうぞ、…アクティス、アクセス開始じゃ」

 沙夜の言葉が終わらないうちに、沙夜の前に異空間の扉が開く。

「夜の散歩も読書も邪魔されるのはこの仕事のつらいところじゃな…」

そうぼやきながら、沙夜は異空間へと踏み出した。