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ArKitypeのブログ

セガ信者なArKitypeがゲームとか趣味の話を書いてます COJ成分多め

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【COJ】 月夜の如き少女 part7 "黄昏の魔導士" 【二次小説】

 『エージェント各員に通達します。』

 冬の某日、日が沈もうとする頃。 こたつの上に無造作に置かれていた京極院沙夜のエージェント用端末がアラートを鳴り響かせた。

 つい数時間前に、中学校で大きな試験があったばかりで、少々疲労がたまっている沙夜が夢現から引き戻される。 眠そうに目をこすりながら端末を開くと、聞き慣れたアクティスの声が。

『先ほど、アルカナ空間内で「絶対者」によるものと思わしきアルカナ事象の改変が行われた模様。 各プログラムに異常が無いか現在精査中です。』

 「絶対者」、それは国家情報防衛局ASTが監視するこのアルカナ空間で、ASTの全技術をもってしてもその全容をつかむことができない「現象」である。 偶発的に発生し、空間内に存在するプログラムに何らかの影響を及ぼしていく。 アクティス曰くその現象が、発生したのだという。

 『……依然、調査を続けますが、不測の事態に備えてください。では。』

 と、言うが早いか、接続が切断され、端末のスピーカーが小さくプツリと音を建てた。

「アクティスも忙しいのだろうかのう……」

 そんな事を考えているうちに、沙夜はこたつの暖気に誘われるように再び夢の中へとまどろみ落ちていった……

 

 その翌日。 まだ少し身体の気だるさを感じながらも、布団から抜け出し、身支度を済ませた沙夜が、端末に目を通すと、アクティスからの「報告書」が届いていた。

 どうやら昨日の「絶対者」の影響をまとめあげてこちらに寄越してきたようだ。 影響がみられたプログラムの名前が羅列され、注釈には影響の内容が事細かにしるされていた。

「ふむ……とにかく、ミイラくんは無事のようじゃな。それなら安心じゃ。」

 どこまでいってもミイラくん至上主義な沙夜にはどうやら「絶対者」のことはそれほど眼中には入っていないようで、鼻歌交じりに、学校へとむかうのであった。

 そして、再び時は流れて数時間。 滞りなく授業が終わり、生徒たちが各々の家路に就き、部活に勤しむ中、沙夜は不審げに学校の裏手の小高い丘を見つめていた。 綺麗に整地された丘は、校舎の3階くらいから見れば、その様がはっきりとわかるほどである。  沙夜の見つめる先には別段不可思議なものもなく、不審人物が徘徊しているわけでもない。 だが、どこか気になるのだった。

 「確かめてみるかの。……アクティス。転送を頼むのじゃ。」

 端末を起動し、アクティスにアルカナへの転送を申請する。

『転送準備、完了しました。いつでもどうぞ。』

 アクティスが言い終わらないうちに、沙夜の身体は光の扉に吸い込まれるように現実世界から姿を消した。

 一瞬の暗転。中に浮いたような感覚に包まれたと思うと、沙夜はあるかな空間へと転送されていた。 なんの変哲もない、現実とまったく瓜二つの―自律プログラムたちがいくらか歩きまわってこそいるが、丘の上にいた。

 「ふむ…鬼がでるか蛇が出るか……」

 果たして「絶対者」の影響なのか、沙夜はどこか異質な感覚を覚えた。 人間のどす黒い感情を具現化したようなぬるりとおどろおどろしい感覚である。

 電脳の世界で感覚というと少しおかしいが、確かに沙夜はそれを感じ取った。 どうやら大本はすぐそこにあるらしい。

 沙夜はすこし身構えながら、いつでも自身の自律プログラムを展開できるようにしながら、一歩一歩近づいていく。

 その先には、1本の古びた街灯があった。 明かりも消えかけていて、どことなく哀愁を漂わせている―いや、哀愁は街灯の足元から漂っていた。

 沙夜が不審に感じたものを発していた正体は、 帽子にくちばしのついたマスクに見を包んだ男らしきもの。

 『俺はこれからどうすれば…』

「お主は…たしかカイムといったかの?」

 ちょうど、アクティスの報告書に名前が画像と一緒に載っていたので、姿形と名前を一致することができた。

 マスクの下からぼやきを漏らす仮面の正体は、アルカナに存在する自律プログラムの「カイム」だった。

 補足すると、このアルカナに存在するプログラムもまた、ASTが把握しきれないことの1つである。 ミイラくんを始めとしたプログラムたちは、みなそれぞれ自律した行動をとっている。 いわば人工知能のようなものなのだが、中には自律行動はのみならず、人語を用いて人間との意思疎通ができるものもいる。 カイムもまた、後者のプログラム1つ、いや1人といったほうが正しいだろうか?

『ああ……若いお嬢さん。俺の話を聞いてくれ…』

そう言うと、カイムは街灯に持たれかけるように座り込み、淡々と話を始めた。

『俺は、いろんなところで話題になった。 俺はどこの誰に作られたのかものしらんが、どんなところでも使えるっ奴って評判だった。それのせいでで他のやつらから疎まれたのかどうかは知らん。だが俺はあの日、あの日の何かのせいで俺の評価は地に落ちたのさ。』 

『 やつが現れたときだ。 俺はまさにこの世界の住人として優雅な日々を過ごしていた。

 その時、何が起こったのか見当もつかなかったが、どこか俺の力が吸い取られたような気がしたんだ。 そうだ、俺の「数値」がいじられちまってたのさ。 そしたらどうなったと思う? 俺は最強の魔導士だったんだ。 それが今は見てみろ! 

 まず俺のことを同じ黄色のプログラムたちが露骨に避けるようになったさ。 一線級の力がなくなった俺は二足三文のいらない奴だって言いたいのかよ?  あの蝿悪魔の猛攻に耐えうる逸材だった俺が、いともかんたんにやられるようになってしまったのさ。この世界じゃ時々争いがある。 お嬢さんはどうやら外の人間らしいしわかるだろ?

 俺たちは基本戦うためにこの世界に作られた。 そして今の自分は戦う役目を果たせなくなった! 俺はもう終わりだ!』

 ぐちぐちとわめき続けるカイム。 まるで人間のようだが、彼らはいずれもプログラムなのを忘れてはいけない。 それを忘れそうなほどに人間らしいのだが。

 しかし、カイムのいうことが沙夜は少し理解できなかった。 沙夜はこの世界を悪用から守るために監視と防衛の任についた。 が、この世界の正体や、プログラムたちについては、上が把握できてないほどである。 ゆえに沙夜はカイムの言う言葉の端々に理解が追いつかなかった。 しかし、かれの激情っぷりから、何が言いたいのかは察しがついたのだった。

 堰を切ったように話し続けるカイム。 彼の気持ちはわかる。だが、沙夜自身にはどうすることもできないできるといえば、これくらいだろうか。 

 沙夜は、まくし立てるカイムを遮って、いつもより5割増しなほどに明朗な声でカイムを諭した。

「いくらお主が絶対者とやらのことをひどく言おうが、自分の不幸自慢をしようが、お主が弱くなったことに違いはないのじゃぞ。 おとなしく事実を受け止めるしかなかろう。  安心するのじゃ。儂はお主とは違い人間だが、お主のその気持はよく分かるのじゃ。 だが言ったところで事実は変わらぬ。 申し訳ないがはっきりと言わせてもらうのじゃ。 あきらめるしかなかろう。 儂にもどうすることはできぬし、それはお主もそうじゃろう?」

すると、カイムは上を見つめ、震えた声で言葉を紡ぎ始めた。

『は、そうか。俺はもう元のようには戻れないのか。 ビルダーのやつと肩を並べて互いに頑張っていたようにはなれないのか……そうなんだな……』

 感情を隠しきれてないのは明白だった。 だが、感情を隠すようにプログラムがそうさせるのか。カイムは落ち着いた声で再び話し始めた

 『ああ、なんだか落ち着いたよ。ありがとうな。』

しみじみと、しかし悲しげにそうつぶやいたかと思うと、一瞬の光と共に沙夜がアルカナへ転送される時のようにカイムは姿を消した。 すると沙夜がひっかかっていた、おどろおどろしい感覚も消え失せたのだった。

 

 

 

 さきの魔導士は本当にプログラムなのだろうか。 もはや人間と言って差し支えないほどである。

 「お主のような魂のないものにこんなにまじめに話したのは初めてかも知れんのう……」

 ふとこの状況を俯瞰的に見てみれば、確かに沙夜のしていることは、意志のない人形と話す子供のようでもある、が。 沙夜とカイムの対話はまさしく「コミュニケーション」だった。

 沙夜に諭された黄色の魔導士は、その仮面の下で、どのような表情をしていたのだろうか。それは、だれにも、「絶対者」でもわからないのだろうか。

 そして再び暗転。 沙夜は現実世界へと帰還した。窓の外はもう暗い。

「やれやれじゃのう……」

 今日のこの体験に新鮮さを抱き沙夜は教室を後にした。

 誰もいなくなった教室を、わずかにかけた月の光だけが照らしていた。